聖天使セイント・ジュエル 

 

第3話 変調

 

 チキチキチキッ

「・・・ルビー、右前三十五度!」

 私が聖具『天使の瞳』で悪魔の位置を特定し、ルビーに指示を出すと、

「りょーかい!」

 彼女は軽快にステップを踏んで、また一体、また一体と倒してゆく。今日『も』、弱い悪魔ゴブリン型の悪魔が出現しただけで、必殺技を使うまでもない。

 

『黒犬』の群を私達が倒して以来、悪魔側に戦力的なダメージを与えたのか、強い悪魔は襲来してこなくなった。

 ただこのところ、出撃回数は大幅に増えている。それも数だけは多いのだ本当に鬱陶しいそんな苛立ちだけが募る。

 

「・・・んっ・・・」

 それになんだか、体も重い。悪魔との戦闘中特に『聖具』を使う時は、セイント・サファイアのコスチュームがまるで、鋼鉄の鎧でもなったかの如く重くなり、それに加えて、貧血の様な『立ち眩み』も、頻繁に起こるようになってしまっている。晶さんの話では、『聖力の流れ』に問題がある、ということだったけれど

 

「・・・燈ちゃんっ!!」

 少ないリソースの中で考え事をし、普段以上にぼうっとしていた私は、その声で我に返った。

 キィィッ!!

「・・・えっ!?」

 意識がクリアになった刹那、視界一杯にゴブリンの顔が迫る私は慌てて剣を掴もうとするけど到底、間に合わないそうしてゴブリンの爪が鼻先にかかろうか、という瞬間、

「・・・届けぇっっ!!・・・たあぁっっ!!」

 ザシュンッ

 朝陽の叫び声とともに振り下ろされた剣がゴブリンの顔を裂き、

『ギアァァッ!!』

 正に間一髪、のところでその姿は、光の粒子へと散っていった

 

「・・・は・・・」

 そのショックに私は思わず、ペタン、と、お尻から地面にへたり込んでしまった。

 

「・・・はぁっ、はぁっ・・・間に合ったぁ・・・」

 そう息を切らす朝陽も安堵したのか、私の前でへたりこむ。

 

「・・・ごめんなさい、朝陽・・・」

 いくら体調が優れないとは言え、注意力散漫だった私の、大きな落ち度自分だけではなく、朝陽の身も危険に曝してしまったのだ。私は自身の罪深さにそう言って項垂れる。

 

「・・・よいしょ・・・」 

 そんな私を見て朝陽は、剣を杖に立ち上がると、

「・・・いいよ・・・燈ちゃんが無事なだけで、ボクは嬉しいよ・・・」

 そう優しい言葉を掛けながら、

 ギュッ

 包み込む様に、私を抱き締めてくれた。

 

「・・・はっ・・・はっ・・・」

 朝陽の熱っぽくて荒い息が、肩口にかかり、汗ばんだ体からもその熱が伝わってくる。それに加えて、

 トクン、トクン

 私に押しつけられた朝陽の豊かな胸越しに、彼女が生きている証鼓動も伝わってきた。

 

 『私を、全力で救ってくれたんだ』その喜びを、全身で感じながら私は、愛しい親友の肩に顔を埋める。彼女の項からは、汗の臭いに混じって、女の子の甘い香りがした。

 とっても心地良い臭いその臭いを嗅ぐ度に、先程の不快な『立ち眩み』とは相反して、幸せでクラクラするような『目眩』が私を襲う

 

「・・・あははっ、どうしたの?・・・くすぐったいよ、燈ちゃん」

 朝陽の声に私は再び、はっとする。私はいつの間にか、自分の鼻先を朝陽の項に擦りつけるようにして、彼女の臭いを嗅いでいたみたいだ。

「・・・ごめんっ、朝陽っ・・・」

 私は余りの恥ずかしさに慌てて、朝陽から体を離した。顔を真っ赤にして、大きく俯く私の鼓動は、

 ドクッ、ドクッ、ドクッ

 さっきの朝陽のものよりも激しい。

 

「・・・いいって、いいって、そんなに謝んなくても・・・でもその調子なら、もう大丈夫そうだね・・・帰るって、晶さんに連絡するよ?」

 朝陽は手をヒラヒラさせながら笑って、そんな私を許してくれる。彼女はスカートのポケットから聖具チェスの駒『先触れの天馬』を取り出すと、

「・・・晶さん?・・・朝陽です・・・うん、敵はみんな倒したよ・・・」

 と、帰還の連絡を始めた。私は、ドキドキする胸を鎮めるように手を当てると、

「・・・すぅっ・・・」

 深呼吸して、気持ちを落ち着かせようとする。でも、鼻の奥にある朝陽の残り香が完全に消えるまで、そのドキドキは止まらなかったのだった

 

 

「・・・んっ・・・解りました・・・では、待っていますよ」

 晶は、燭台の脇に置かれたチェスの駒―朝陽の『先触れの天馬』と対を為す駒から、帰還の報告を受けると、屈んだ姿勢から背を伸ばす―

 グチュッ

 その刹那、晶の下半身から湿った音が響いた。

 

 彼女が今纏っているのは、朝陽や燈を迎え入れるべき『シスター』、としてのものではない。晶が纏うのは『邪神』の『神服』と一つの『下着』その『下着』は身じろぐ度に、

 グチュッ

「・・・あんっ

 淫靡な音と快楽を彼女にもたらすもの

 

 ボゴッ

 ビルジの肉棒を模したディルドーは、晶の下腹をその形に歪ませ、膣壁を容赦なく抉る。

 しかし、秘肉から子宮まで、紫の『聖肉』触手細胞で改造された彼女の淫器は、その刺激全てを、快楽へと変換するのであった。

 

 『使徒ベリアル』として『堕天』した彼女は、ビルジに数えきれぬほど『ご寵愛』を受け、身も心も忠実な『僕』『肉奴隷』と化している。

 今や彼女の悦びは、『神』ネメシス神に仕え、愛しいビルジから『ご寵愛』を得ることなのだ

 

「・・・」

 ガタッ

 晶は祭壇に載った『聖杯』を手荒に掴むと、

 ゴトッ

 床へ乱暴に置く。その扱いは正に、『物』以上のものではない。嘗ての彼女であれば、低級と雖も『聖具』に、こんな扱いなどあり得ないだろう。だから、

「・・・んっ・・・」

 その上に便器であるかの如く跨がり、『穢れ』を吐き出そうとも不思議は無いのだ

 

「・・・んっ・・・」

 私は床に『聖液』が零れぬよう股の下に『器』を置き、

 カチャッ

 ビルジ様から頂いた『下着』のベルトを解いた。

 

 ズニュッ

「・・・ああんっ

 膣圧で僅かに『下着』の『内側』が顔を覗かすけれど、

 ギチュッ、ギチュッ

 私の『体』は、それを逃すまいと言わんばかりに、再び肉の内に銜え込んでしまう。

 ビルジ様の『ご寵愛』を感じるこの『下着』はいつまでも身に着けていたいけれど、今、そんな余裕は無い。

 彼女達がここへ戻ってくるまで三十分足らずそれでも可能な限り、ここから遠い場所を指示したのだけれど

 

 私は、『下着』をもう一度押し込みたい欲求をどうにか振り切って、

「・・・んっ・・・」

 内側の根元を掴み、それを『体』から引っ張り出そうとした。

 

 ズリュッ

「・・・はぁっ・・・んんっ・・・

 でも、まるでビルジ様に今、『ご寵愛』を頂いているかの如く、『内側』の瘤が私の『中』を擦ってしまう。

「・・・んあっ

 それだけで私は、軽い絶頂を感じてしまうけれど、『お役目』朝陽さんと燈さんを導くことの重さを手首に掛けるように、

「・・・んっ・・・んんんっ!」

 ズズズッ、ズリュンッ

 『下着』を一気に引き抜いて、

 カランッ

『器』へと落としこんだ。

 

「・・・ふぁっ・・・んんっ・・・」

 ビルジ様の『形』どおり、ぽっかりと開いた膣口からは、

 ポタッ、ポタッ

 肉悦の滴が滴り落ちている。でもこれはまだ、『すべき作業』の半ば

 

「・・・ふぁんっ

 グイッ、クパァ

 私は秘肉の両端に指を掛けて割り開くと、腰を深く落とし、

「・・・んっ・・・んんっ!」

 思い切り息んで、自身の『中心』にあるモノをひり出してゆく。

 ズルンッ

「・・・はぁんっ

 子宮口を脱した『聖具』は、

 ボコッ

 私の下腹をその形―卵の形に歪めながら、膣口へ向かって降りてくる。ビルジ様がお持ちになる瘤の感触が一番だけれど、滑らかでありながら若干のざらつきが膣を擦る感触も、癖になりそうだ。

 

 ボゴッ、ブリュッ

 膣肉と『聖具』の表面が擦れる『産卵』の悦に浸っていると、『聖具』の真っ黒な『底』が、秘肉の間に見えてくる。

「・・・ふうぅんっ」

 グニィッ

 私は一際大きく息んで、秘肉を力一杯、指で左右に割り広げた。すると、

 ズヌルッ、ブリュンッ

「・・・ああっんんっっ

 絶頂とともに、素晴らしい『産卵』の時が終わる

 

 ビチャッ、ガランッ

 『器』の中へ落ちた『聖具』の上に、

 ビチュッ、ブリュッ

 堰き止められていた私の『一部』が降り注いだ。

 

 ビチビチビチィッ

 愛液と子宮の滴に満たされた『器』の中でそれは、存在感を示すように暴れ回る。私と紫の『愛しい子供達』『聖肉』と、彼等の『母乳』とも言うべき私の愛汁の中から、

 ピチャッ

 『聖具』『孵卵器』を拾い上げると私はそれに、

「・・・んふっ・・・ちゅっ・・・」

 『愛情』を込め、祝福のキスをする。私の中で暖められ、自分の味がするそれは、

 パカッ

 愛の深さへ呼応する様に、左右に開く。その中には、

 キラッ

 禍々しい光を放つ、二つの石『聖玉』が納められていた。

 

 私はこの『聖具』『孵卵器』に『聖玉』を納め、子宮の中で『浄化』しているのだ。

「・・・」

 私はそのうちの一つの紅い石セイント・ルビーの『聖玉』を摘まみ上げ、その色合いを見る。

 フワァ

 夕焼けの空に降る、黒い雪の様に、『浄化』の効果は見られるものの未だ、禍々しい光は健在のようだ。

 

「・・・ちっ・・・」

 それに私は思わず、舌打ちをする。己の信心が足りないせいか、可愛い『妹』の一人を未だ救済できないことに、自己嫌悪の念すら沸いた。

 

 ギュッ

 私は、手を組んで、ルビーの『聖玉』を包むと、

「・・・ネメシス様・・・どうか・・・哀れな子羊を、お救いください・・・」

 贖罪の念を込めながら、『神』のお慈悲に縋る。自分の至らなさと、一層の信心を捧げることを誓いながら

 

この『礼拝堂』は、ビルジ様のご尽力もあって、あるべき『神』を祀る『神殿』に改装された。

 普段は邪教徒どもの目を眩ませるためにビルジ様の魔法で、『邪神像』を祀るように偽装されてはいるが、私だけの時間は、美しきネメシス様の御姿に触れることができる。

 

「・・・」

 信仰に浸る悦びを感じつつ、十二分に祈りを捧げてから私は、ルビーの『聖玉』を置き、もう一方の『石』を手にする。

「・・・これは・・・」

 対照的な『浄化』の成果に私の頬は、自然に緩んだ。もう一方の『石』セイント・サファイアの『聖玉』は、

 シュウウッ

 蒼い海に渦巻く潮の如く、大きな『浄化』の効果が見られたのである。禍々しい燐光は、聖なる漆黒に飲まれ、消え去ろうとしていた。

 あくまで現時点ではあるけれど、燈さんのほうが朝陽さんよりも、『神』の寵愛を得る資質が高い、ということなのだろう。

 

「・・・神よ・・・感謝致します・・・ちゅっ・・・」

 私はネメシス様に感謝を捧げ、サファイアの『聖玉』にキスをすると、愛しい『妹』達を迎えるべく立ち上がる。

「・・・二人とも、待っていてね・・・必ず・・・私が導いてあげるから」

 そう、彼女達の『救済』を強く心に念じて

 

 

「・・・二人とも、怪我はしていない?・・・特に問題はないかしら?」

 晶さんとの、いつもの遣り取り普段通りであれば、朝陽が軽口を叩いて私がフォローするそれだけの時間だけれど今日はなんだか、気分が重い。

 

「・・・大丈夫、何とも・・・」

 暗く沈む私を気遣ってくれたのか、朝陽がそう返そうとしてくれたけれど、私は手でそれを制して、

「・・・あの、晶さん・・・実は・・・」

 正直に、現状を切り出した。心配そうな朝陽の顔と気持ちが胸に刺さるけれど、ここは彼女のためにも、その優しさに甘えちゃいけない。

 

「・・・そう・・・そんなことがあったの・・・」

 私の説明を聞いた晶さんは、矢張り心配げな表情で言葉を詰まらせたけれど直ぐに、

「・・・燈さんの症状はやっぱり、『聖力の乱れ』、が原因だと思うの・・・でも心配しないでね。ちゃんと対応策はあるから」

 柔らかく微笑んで、私達を安心させてくれる。

 

「・・・良かったね、燈ちゃん」

 晶さんの言葉に朝陽も、我が事の様に喜んでくれた。勇気を出して言って良かったこの優しい人達に、迷惑は掛けたくない私は、そう強く思う。

 

 晶さんは、

「・・・じゃあ、『お祈り』に少し、『儀式』を加えてみましょう・・・二人とも、頭を下げて」

 そう言うと、

 ファサッ

 私達の頭に、黒いヴェールを掛けてきた。私が体調不良を訴えだしてから、『確認』と『報告』の間に設けられた『お祈り』晶さんの話では、私達の『聖力』を『清浄化』するのに効果があるらしい。実際、

「・・・ん・・・」

 この黒いヴェールを被ると、ヴェールがそのまま肌と一体になる様な感覚がして、疲れや倦怠感が和らぐのだけれど

 

「・・・じゃあ、いつも通り、私の言った事を復唱してね」

 晶さんは微笑みながらそう言うと、祭壇に向き直り膝を折って、『お祈り』の姿勢を取る。

「「・・・」」

 私と朝陽もそれに倣って、ヴェールを被った頭を下げた

 

「・・・天にまします我らの神よ・・・我ら僕に祝福を与え給え・・・」

 晶さんの涼やかな声に続いて、

「「・・・天にまします我らの神よ・・・我ら僕に祝福を与え給え・・・」」

 私達も鸚鵡返しに繰り返す。すると、微かな『力』が、

 ポウッ

 頭の上から、陽光の様な暖かさをもって降り注いだ。全身に降り注いだその『力』は、

「・・・我ら僕は主に従い、この身を捧げ、魂を奉らん・・・」

「「・・・我ら僕は主に従い、この身を捧げ、魂を奉らん・・・」」

 更に深く『祈り』を捧げると、

 ジワァ・・・スウウゥ

 皮膚から細胞の隅々へ浸透するかの如く広がってゆく。まるで自分の中を侵され、掻き混ぜられるみたいな感覚何度繰り返しても慣れきれないその感覚に私は、

「・・・んあっ・・・」

 小さな声を漏らしてしまうが、

「・・・んんっ・・・」

 それは朝陽も同じ様で、その秀美な顔を歪めて懸命に耐えていた。

 

 その背徳的な表情に私は、

 ゾクリ

 背筋を撫でられる様な、友人にあるまじき感情を抱いてしまう。

『・・・え?・・・え?・・・』

 これまで感じたことのない、異質な感情に私は、激しく動揺した。どうしてこんな気持ちになるのか、全く理解できない戦場での一件と言い、今日の私は、少しおかしいのかもしれない

「・・・はい、『お祈り』はこれでお終いよ・・・でも、もう少しそのままで待っていてね」

 でも、晶さんがそう言ってくれたお陰で、一息つくことができた。そして私は、

「・・・」

 これ以上変な気持ちにならないよう、更に頭を下げて、朝陽から視線を逸らす。

 ドクンッ、ドクンッ

 それでも、熱っぽい動悸は中々止まらない。私はただ、時間がそれを解決させるのを期待して、俯き続ける

 

「・・・二人とも待たせてごめんね・・・燈さんの『症状』もあるから・・・今日から、『聖餐』を試してみましょう」

 晶さんはそう言って、金属製のトレーに小皿と、小さな杯を2つ載せて戻ってきた。

 小皿には数欠片、干し肉の様なものがあり杯には、ミルクと思しき液体が満たされている。

 私の朧気な記憶だと『聖餐』には、ワインやパンが使われていたような気もするけど、私達の年齢なども考えた、晶さんなりのアレンジなのかもしれない。

 

 晶さんは、

「・・・じゃあ、二人とも・・・この『干し肉』を口に含んで、ミルクを一気に飲み干して頂戴・・・『干し肉』は噛んでも、飲み込んでもいいからね」

 微笑みながらそう促すと、トレーを私達へ差し出すのであった。

 

 晶さんの言葉で、口にするものが、自分の想像と違わぬものであることに少し安堵した私は、

「・・・」

 依然朝陽のほうは努めて見ぬまま、干し肉を一つ摘まみ、ミルクが満たされた杯を持つ。

 トプン

 少し粘り気のあるミルクは、杯の中で乳白色の波を小さく立て、仄かに甘い香りを放っていた。

 

「・・・」

 そんな私の横で、朝陽が動く気配がする。私はそれに少しだけ間を置いて、

「・・・ん・・・」

 干し肉を含み、杯を顔の近くまで持ち上げた。

 

 舌先に載った干し肉は、少し生臭さを感じるものの、ビーフ・ジャーキーみたいな味で問題は無い。だから私は、意を決して、

「・・・んくっ・・・んっ・・・」

 杯に口を付け、干し肉ごと、ミルクを一気に煽る。口の中に広がるミルクの味も、生乳なのか、若干の生臭さは感じるものの、甘味があり、悪いものではない。

 

「・・・んっ・・・ごくんっ・・・」

 干し肉ごと、ミルクを胃の腑へ納めた私は、ゆっくりと杯から口を離した。暫くすると、

 ポウッ

『お祈り』を捧げた時の様な柔らかい熱が、じんわりと体の奥から沸いてくる。なんだかほっとする感覚でも、

「・・・うえっ、晶さ~ん・・・コレ、どっちも変な味がするよ・・・なんだか生臭いし・・・」

 そう言って顔を顰め、『うえぇ』と舌を出す朝陽彼女のほうは、私とは違った感想を持ったようだ。

 

「・・・あら、ごめんなさい・・・朝陽さんの口には合わなかったかしら・・・燈さんはどう?」

 晶さんはそんな朝陽に困った顔をしながら、私に感想を求めてくる。朝陽の味覚は『お子様』寄りだから、『この味』は嫌なのかもしれないけれどそんな風に思いもするが一方で、この『聖餐』は私のせいでもあるんだそう思うと、彼女を少し庇いたくもなる。

 

「・・・そう、ですね・・・私は、大丈夫ですけど・・・少し・・・生臭いかもしれません・・・」

 だから私は、晶さんにそう、『嘘ではない』言葉を返した。

 

「・・・解ったわ・・・次からは・・・もっと摂りやすいように工夫するから・・・今日のところは二人とも、我慢して・・・ね?」

 晶さんは、本当に申し訳なさそうに謝ると、身を乗り出して私達へ手を合わせる。

 その時丁度、

 フゥッ

 礼拝堂の空気が流れ、先程のミルクの残り香なのか、甘い香りが私の鼻腔を軽くさすのだった

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