聖天使セイント・ジュエル 

 

第9話 一日目③ 

 

「・・・うふふっ・・・これで、ネメシス様にお仕えする準備はできたわね・・・これからが、本当の『修道』の時間よ・・・まずは・・・」

 『晶さん』はそう言葉を切るとどこからともなく、『或るモノ』を私の鼻面へ突きつけた。それは―


「・・・私の・・・聖・・・玉!?」

 射精の波に震えながらも私は、最大の『希望』とも言える聖玉に、目の色を変える。

 今、これを奪ってセイント・サファイアに変身すれば、勝機はあるかもしれない。

 絶望に沈んでいた心が一気に沸き立った。でも―


「・・・ああ、この『石』・・・今の貴女ではまだ、そんな名前で呼ぶのね・・・ふふっ、これでもまだ・・・そう呼べるかしら?」

 『晶さん』は、くっと口の端を寄せると、聖玉の中心を押して―


 パキンッ

「・・・え?」

 海の如き蒼を湛えた聖玉が、敢えなく『砕け散った』。そしてその中心には―

「・・・嘘・・・私・・・私の聖玉がっ!?」

 コオォッ

 見慣れた『海の蒼』では無く、邪悪な『深海の漆黒』が渦巻くように、『蒼』を飲み込もうとしている。 その闇深き深海に漂う『聖なる』光は、夜光虫の如く儚い―


「・・・貴女達にはまだ、この『色』の素晴らしさが解らないから・・・『カバー』を被せていたの・・・それにしても・・・見て、燈さん・・・黒光りして神々しいでしょう?・・・」

 『晶さん』はそう言いながらうっとりと、聖玉を眺める。


 でもその表情から一転、

「・・・でもまだ、目障りな『色』が混じっているの・・・だから貴女が『力』を注いで、『石』を完全な『聖玉』に浄化しないといけないわ・・・」

 私の『失望』とは相反する意味で、哀しげな表情を浮かべる『晶さん』は、まるでゴミでもうち捨てるかの様に、

「・・・あっ!?」

 そう私が叫ぶ間もなく、手からポトリ、と、『石』を床へ放つ。

 だけどそれは床へ達する前に、

 グジュリッ・・・カランッ

 肉の床から現れた『器』の中へ、甲高い音を鳴らしながら収まった。


 汚らしい床肉の間から現れた『器』。それは―

『・・・聖杯!?』

 この場には似つかわしくもない、『聖なる』神器―穢らわしい粘液に塗れたそれは『聖玉』と同じく、弱々しいながらも果敢に、魔へ抗おうとしていた。だけど―

 『晶さん』は私の手に、自ら手を重ねると、

「・・・今度は自分でしてごらんなさい・・・出すものはぜぇんぶ、その『便器』に出すのよ・・・さあ・・・」

 ギュッ

 未だ硬度を保ち震える、『排泄器官』へ魔手を導く。


「・・・ううっ・・・!?」

 ドクドクと脈打つそれを握っただけで、射精しそうになるけれど、

「・・・まだ、出しちゃダメよ・・・『的』が定まっていないじゃない・・・」

 そう命じられるだけで、

 グッ

 括約筋が後ろへ引っ張られる様な感覚がして、『放出』は堰き止められてしまった。

 一部の『器官』だけではなく、『肉体』そのものの自由すら無い―私はそれを、嫌というほど自覚させられる。


 だけどそれ以上に、『便器』『的』―『晶さん』の口から放たれた、その二つの言葉に私は愕然とする。

 よろよろと歩む先に見えるもの―それは、『聖杯』に入った『聖玉』なのだ。

 でも今の『晶さん』にとってそれらは、『穢らわしい』ガラクタに過ぎない―そして私は、

「・・・これでいいわ・・・さあ、燈さん・・・存分に出しなさい」

 丁度、男の子が立ち小便をするような姿勢で、『聖杯』の前に立たされてしまうのである―


「・・・い、嫌ぁ・・・」

 聖玉は、私のアイデンティティーの一つといっても過言では無い。

 朝陽や、晶さんとの思い出の結晶―それを自身が『出した』汚物で穢すなんて―『思い出』の一片である筈の『悪魔』は、そんな悪夢を私に強いようとしているのだ。

 私はぎゅっと肉棒を握り締めながら辛うじて、破滅の瞬間を堪えていたのだけれど―


「・・・燈さん、何も嫌がることは無いのよ?・・・これはとぉっても、神聖な『お清め』になるのだから・・・さあ、ちゃんと『的』を見ながらするのですよ?」

『晶さん』は、優しく諭すようにそう命じると、

 グッ・・・コシュ

 重ねた手を動かして私に、引き金を引かせた。


「・・・うっ・・・!!」

 一度射精した肉棒は余りに敏感で―

 ドピュッ

 一擦りしただけなのに、私は敢えなく精を放ち、

 ベチャァッ

「・・・い、嫌ぁあぁっ!!」

 汚らしい、粘液質な精で、己の分身をベットリと、穢してしまう。

 そうして、『理性』に勝利した『性器』は、

 ブピュッ、ピュッ

 『理性』に止めどなく、暴威を振るい続けた。

 聖杯の底で、健気にも存在を主張していた聖玉はあっと言う間に、白濁の中へ没してゆく。

 それは、自分の誇りが没するにも等しい―


「・・・やだ、やだよぉ・・・お願い、止めてっ・・・止めさせてよぉっ!!」

 私は、眦に涙を滲ませながら肉棒を扱くという惨めな姿で、『晶さん』にそう懇願する。

 けれど、

「・・・あら、止めさせて、だなんて・・・でも、気持ち良いんでしょう?・・・どこが気持ち良いか、はっきりおっしゃい」

 『晶さん』の『告白』を強いる言葉に、

「・・・い゛あ゛っ・・・ぎもじイイっ・・・オチンチンぎもじイイよおっ!!・・・い゛や゛ああぁっ!!」

 射精ほどの脆弱さであっさりと、『本音』を吐き出してしまうのだった。


 グチュッ、ドピュッ、グチュッ、ドピュッ

「・・・うっ・・・はぁっ・・・出てるっ・・・出てるよぉ・・・」

 牛を搾乳するが如き、機械的な自慰と射精―肉棒を扱く度に少しずつ、でも着実に、聖杯は白濁で満たされてゆく。

 もう『誇り』とかの問題じゃなく、正気を保つことすら怪しい―私はそんなところまで、追い詰められていた。


 そんな哀れな少女にも『晶さん』は、

「・・・ふふっ、貯まってきたわね・・・燈さん、この素晴らしい悦びを、ネメシス様に捧げましょう・・・私の言うことをそのまま唱えるのよ?・・・」

 彼女の『神』に陶酔した表情を浮かべつつ、『棄教』の手を緩めることは無い―


「・・・偉大な我が神ネメシスよ・・・」

「・・・い、偉大な・・・我が神・・・ネメシス・・・よ・・・」

 もうギリギリの私が、『晶さん』に逆らうことなんて、できっこない。

 そんな私が彼女に続いて、忌まわしい『神』の名を唱えた刹那、

 キィンッ

 下腹に刻まれた呪刻が、妖しく光ったかと思うと、

「・・・はぁんっ♡」

 呪刻から子宮、そして肉棒へ抜ける様な、甘い電撃が走る。それを境にして私の体に、大きな『変調』が訪れた―


『・・・や゛っ・・・オチンチン触ってるだけで・・・んんっ♡・・・どうしてこんなにっ・・・んっ・・・これっ・・・すごひっ♡』

 コリュッ・・・ビリィンッ

 指が、肉棒に浮き出た血管を触るだけで、子宮を突き上げるような『雷撃』が襲う。

 しかもそれはフィードバックされるみたいに呪刻を通り抜け、

 ビクッ、ビグンッ

 肉棒の根元から鈴口までを、雷で打つのだ。

 そう、まるで、呪刻を中心にした神経網が構築されたみたいに―


 私はそれに為す術もなく、

 ドビュッ、ドビュッ

「・・・あ゛っ、あ゛っ♡」

 無様に、ヘコヘコと腰を振りながら、激しい射精を繰り返す。

 これは『棄教者』に対する、邪神の褒美なのか―だけどそんなことを思う間もなく、

「・・・ふふっ・・・我、忠実な僕なり・・・我が身、我が心を捧げん・・・」

「・・・ひうっ・・・我、忠実なしもべへぇんっ♡・・・我が身ひぃっ・・・我が心をささげへぇぇんっ♡」

 晶さんの言葉をなぞるだけで、

 ドビュドビュドビュゥッ

 次々と『神経』が解放され、快感は級数的に増してゆくのだ。

 そんな私の『穢れ』を量るように、聖杯は急速に精で満たされてゆき―


「・・・うふふっ、あんなに嫌がっていたくせに・・・すっかり蕩けた顔しちゃって♡・・・どう、ネメシス様に身を捧げるのは、とっても気持ち良いでしょう?」

『晶さん』はそう言いながら、指の先で私の亀頭を弄ぶ。それに私は堪らず、

「・・・ひっぐぅっ!?・・・ぎもちイイっ・・・ネメシス・・・様・・・気持ちイイっ♡」

 グリグリと、鈴口から穿り出される精の如く、淫らな内心を述懐してしまうのだった。


 更に、その『神』の名を口にした瞬間、

 キィンッ

 正しく、『神』が『恩寵』を与えるかの如く、下腹の呪刻が大きく輝き、

「お゛お゛おんっ♡」

 これまでのものとは比較にならぬ、暴力的な悦楽が津波の様に、全身へと押し寄せてくる。

 だけどそれでいて、チリチリと、内側から肌を焦がす様なむず痒い感覚が残る―

 ボビュッ、ボビュゥッ

 先程よりも激しく射精しながら私はそこに、満たされきれぬ、もどかしさを感じていた。


「・・・うふふ、やっと解ってくれたみたいね♡・・・でも、少し物足りないでしょう?・・・いいわ・・・魔法の呪文を教えてあげる・・・」

 そんな私を見透かすように『晶さん』はそう言って、精液塗れの指で私の唇に触れると、

「・・・『ネメシス様、私に力をお与えください』・・・こうお願いするの・・・そうすれば貴女のココに、お力を授けてくださるわ・・・そうすれば『石』だって、もっと『浄化』できるわよ・・・どう?素晴らしい呪文でしょう?」

 そう耳許で囁きながら、彼女の『神』を受け容れるべき、悪魔の呪刻を撫で付ける。


 ネメシスの力を請い、受け容れる―それは文字通り、邪神に屈することと同義だ。

 しかもその邪悪な力は直接『聖玉』に降り注ぎ、致命的な穢れを与えるに違いない―


「・・・いっ・・・や゛っ・・・いえ゛っ、なひっ!」

 ドピュッ、ドピュッ

 私は間抜けにも射精しながら渾身の、拒絶の言葉を吐いた。

 どんなに誇りを失っても、最後の一線だけは守り通さねばならない。

 だって、一緒に戦ってきた朝陽に、会わせる顔が無くなるじゃない、と―


 でも鈴口の先からはヒリヒリと痺れる様な焦燥感が、そして尿道からは、

 ビクッ、ビクンッ

 完全な敗北を請う、哀願にも近い痙攣が、ひしひしと伝わってきてしまう。

 でも耐えなきゃいけない。そう、耐えなきゃいけないんだ―私は射精の衝動に、ブルブルと内股を震わせながらも意を決して、『晶さん』と対峙した。でも―


「・・・あら、どうして?・・・貴女のオチンチンは、こんなに言いたがってるわよ?」

 『晶さん』がそう言って、鈴口を爪弾いたかと思うと、

 ズッ・・・ズリュリュリュッ

 彼女の指先が変形し極細の触手となって、尿道への侵攻を開始する。

「ひぎぃいぃっ!?・・・はいってりゅ、オチンチンにはいってりゅうぅぅっ!!」

 ミジッ、ミジィッ

 極細ながらも、圧倒的な肉感―しかもその形状は、

 ボゴリッ、ボゴリッ

 ビーズの様な『コブ』を持つ凶悪なもの―に、尿道を支配され、私は半狂乱となる。

 しかも責め苦はそれだけで無く、

 ブグッ、ブグンッ

 奔流となった精が急に行き場を塞がれ、男根の根元を容赦なく圧迫するのだ。


「ぬいでぇっ!!・・・オジンジンがらぬいでへぇっっ!!」

 猛烈な苦しみに私はあられもなく、悪魔へ許しを請う。だけどその悪魔は、

「・・・あら、いいわよ?・・・さっき教えた呪文を唱えて呉れるのなら・・・こんな風に抜いてあげる・・・」

 そう私を唆すと、

 ヌ゛ブリッ

 ほんの数センチだけ、極細触手を引き抜いた。すると―

 ボピュッ

 空気を含んだ精が間抜けな音を立てて、僅かに漏れる―だけどそれは、

「お゛ほほお゛お゛お゛っ♡!!」

 私に破滅的な効果をもたらすには、十分な刺激だった。


「・・・ね゛め゛っ・・・」

『・・・ダメ、それは言っちゃ・・・!!』

 言ってはいけない、いけないのに、

 プピッ、ピュッ

 精の気泡が弾けるのにあわせて、唇が勝手に動く。そしてその唇は、

「・・・あら、言ってくれるの?・・・うふふ・・・じゃあ、サービスしちゃおうかな♡」

 ズヌ゛ヌゥッ

 触手が引き抜かれるのと同じ早さで、

「・・・ジズざまぁっ・・・ぢがらおぉぉっ・・・!!」

『・・・言わ・・・ない・・・でぇ・・・』

 屈服の言葉を紡いでしまうのだ。

 まるで尿道を擦る極細触手がそうするようにゴリゴリと、鑢で削がれるが如く、磨り減らされる私の理性―そして遂に―


「・・・ほら、あと一言♡・・・一言言えば、楽になるわ・・・よっ♡」

 ズルルウゥッ

 尿道を勢いよく擦る触手の魔悦に、

「『・・・い゛う゛うぅ♡・・・ちかりゃを・・・おあたへくらさい♡』」

 敢えなく屈してしまうのだった―


「・・・うふふ、良く言えまし・・・たっ♡」

『晶さん』は満面の笑みで私を『褒める』と、

 ズンッ・・・ズブリュズリュリュゥゥッ

 尿道から触手を一気に、引き抜いてゆく。

 それは私の理性を、根刮ぎ奪っていくように―


「・・・お゛っ、出せりゅ♡・・・オチンヂン出せりゅ♡・・・お゛っ・・・お゛お゛おっ!?」

 そうして私が、尿道の解放感と、射精の快感に期待して、腰をせり出した瞬間―

 ボグンッ

 下腹を、思い切り殴られたかのような衝撃が走ったかと思うと―

 ズゾゾゾゾォッ

 呪刻から、可視できるほどの邪悪な波動が、私の中へ吸い込まれてゆく。


「・・・い゛お゛お゛おおぉっおほお゛んっ!!」

 内蔵を掻き回されるような感覚―私は完全に、理性の手綱を手放してしまう。そして―

「・・・うふふ、燈さん・・・貴女の願い通り、ネメシス様がお力を分け与えてくださったわ・・・そのお力で・・・貴女の中の邪悪なものを清め流すのよっ!!」

 ズリュリュゥゥッ・・・ズプヌゥンッ

 その瞬間を見計らったかの如く『晶さん』は、私の中から触手を抜き去ったのだった―


 ブボッ・・・ブリュンッ・・・ドブブリュンッ

 栓を失った筒先から、先程までの精『液』とは異なる、粘度を持ったチーズ様の『精』が溢れ出す。

 ボチャンッ、ボチャンッ

 ゲル状のそれは、聖杯に貯まった『精液』を跳ね上げながらも確実に、『内容物』の『体積』を増していった。


 先程までの『射精感』だけではなく、自分の中の大切なものを『精』にして放つ、邪悪な悦び―自身を底辺にまで堕としめる、穢れた悦楽に私はただ、

「・・・おぶふふうぅぅ゛ん゛ん゛んふぅぅんっ♡」

 流されるままに、身を委ねてしまう。魔悦に完全敗北した私はやがて、

「・・・お゛っ?・・・んっ・・・ふぅ・・・」

 ジョッ・・・ジョロロォッ

 『放尿』すら躊躇無く、『聖杯』へしてしまうのだ―


「・・・あらあら・・・オシッコまでしちゃうなんて・・・本当に気持ち良いのね・・・」

 晶は、恍惚の表情で『射精』と『放尿』を同時に行う燈の頭を、優しく撫でる。

「・・・あ゛あ゛っ・・・ぎぼ゛ちひぃっ♡・・・オシッコも・・・すごひっ♡」

 精と尿が入り交じったレモンイエローの半液体を、男性器から放ち続ける燈―ネメシスの力を受け容れたことにより、彼女の中に宿る聖なる力は『精』に変換され、放たれている。

 謂わば彼女の男根は、『神』の加護を持つ者を堕としめる、『魔具』でもあるのだ。


 一方、

 ドクンッ

 呪刻から供給される『魔力』は、彼女の奥深くへと浸透し、『聖なる力』を駆逐する。

 燈の中で生み出される『聖なる力』と、呪刻越しに供給される『魔力』―このバランスが均衡を失った時、彼女は完全なる闇の使徒へ堕ちるだろう。

 尤も、晶にとってそれは疑いなく、『浄化』もしくは『昇華』、と呼ぶべきものなのではあろうが―


「・・・お゛っ・・・ほお゛っ♡・・・」

 ジョロロロッ

 長い長い『射液』を経て漸く、

 ジョロッ・・・ジョッ

 その勢いが弱まってくる。既に聖杯は黄みがかった液体で満ち、縁から溢れたそれが、肉床へ大きな液溜まりを作るほどになっていた。


「・・・もうそろそろ終わりみたいね・・・燈さん、中に溜まったものを全部出してしまいなさい・・・ほら、ぴゅっ、ぴゅっ♡」

 晶はまるで、幼児の小便を介添えする様な気安さで、燈の手に己の手を重ねると、

 グニッ、グニッ

「・・・う゛っ・・・はぁんっ♡」

 軽く肉棒を扱かせ、

 グプッ・・・ピチョンッ

 尿道に残った残滓を、一滴残らず絞り出させた。

 しかし、射液の余韻に惚ける彼女の肉棒は、更なる悦楽を望むのか未だ、固いままである―


「・・・ふふっ、こんなに濃くて、『力』に溢れた精を出すなんて・・・燈さん・・・貴女は本当に・・・ネメシス様の使徒に相応しいわ・・・」

 晶は、『便器』を捧げ持ちつつ、それに満たされた邪悪な汚液を、まるで芸術品でも見るかのような、うっとりとした表情で眺めると、

「・・・さあ、燈さん・・・これを飲んで♡・・・でも、『石』は飲み込んじゃ駄目よ?・・・ふふっ、とぉっても、素敵な味がする筈よ・・・本当は、私が飲みたいくらいなのよ?」

 悪魔の酒杯を、快楽の余韻に惚ける燈へ手渡し、魔力の詰まった恐るべき魔液―飲精を命じるのだった。


 アンモニア混じりの、強烈な臭気を鼻面に突きつけられた燈は、

「・・・う・・・あ?・・・」

 虚ろな瞳のまま漸く、我に返る。


 汚物を浪波と満たす杯と『晶さん』―私はぼんやりと、その二つを見比べる。でも、

「・・・さあ、それを飲んで・・・ネメシス様のお力が、貴女を中から浄化してくださるわ・・・これは本当に、素晴らしいことなのよ?」

 『晶さん』のその言葉に、事の深刻さを思い知った―


「・・・い、嫌っ・・・止めてっ!!」

 私はそう叫びながら顔を背けようとするけど、

 キィンッ

 呪刻が妖しい光を放つと、体の自由が一切きかなくなり、

 ググッ

 腕はそこだけ、機械仕掛けの人形になってしまったかのように、汚物の杯を1センチ、1センチと、一定の早さで、顔のほうへ寄せてくる。その一方で、

 ビクッ、ビクンッ

 肉棒は歓喜に震え、一層固く勃起するのだ。そうして―


「・・・燈さん・・・ゆっくりと・・・味わいながらでいいわ・・・ネメシス様に感謝の祈りを捧げながら、全て飲み干しなさい・・・それと、『石』に触れては駄目よ?」

 『晶さん』が、再び飲精を命じると私は、

「・・・い・・・あ・・・おぶっ!?」

 自らの意思に関係なく、杯に口をつけてしまうのである―


「・・・んぐっ・・・」

 一口目―ドロドロとした気持ち悪い『食感』に加えて、口一杯に広がる、強烈な生臭さとアンモニア臭―鼻腔から抜けるその『悪臭』に私は、吐き気を覚えそうになる。

 『美味しい』―でも私の味覚は、あり得ない信号を脳へ伝えてきた。

 『どうして!?』―困惑する私を余所に、機械仕掛けの腕は再び、杯を傾ける。


「・・・んくっ・・・゛んっ・・・」

 二口目―これは、私が出した『排泄物』なんだ―そう思うと、胃の底から込み上げる様な嫌悪感が、沸々と込み上げてくる。

 でも、喉奥が少し震えるだけで、嘔吐には至らない。

 『美味しい』―『理性』に反駁するかの如く、狂った私の味覚は『間違った』情報を脳へ伝え、

 ビクッ・・・ビュルッ、ビュルッ

 その『情報』を『正しく理解』した肉棒は、悦びの余りか、自身を汚し辺りへ撒き散らすほどの、盛大な射精すら始めてしまうのであった。


『悔しい』―私はそう思う―思う筈なのに体は、

 ビュルッ、ビュルッ

 歓喜にうち震えてしまう―だから―

「・・・あらあら・・・射精までしちゃうなんて・・・よっぽど美味しいのね・・・どう、燈さん?・・・美味しい?」

 『晶さん』のその問いに私は、

「・・・いぶっ・・・おいじい・・・んぐっ・・・おい・・・じいよぉ・・・」

 口のまわりを汚物でベタベタにして、鼻水を垂らしながらもそう、答えてしまうのである。


 そう、この『汚物』は、これまで食したどの食べ物、飲み物よりも美味、なのだ。

 恐らく、この悪魔どもによって、味覚を変えられてしまっているのだろうけど、『体』が『美味』と感じるのは、紛れもない事実―


「・・・そう、それは良かったわ・・・どんどん飲んで?・・・一滴残らず飲み干すのよ」

「・・・んっ・・・んぐっ、んぐっ・・・」

 嫌悪感と美味―全く相反する『知覚』に私は、

『・・・い、嫌っ!・・・美味しくなんてない・・・美味しくなんて・・ない、筈なのに・・・』

 『あるべき心』を削られながら、

 ドピュッ、ドピュッ

 射精し続けてしまうのだった。

 そんな地獄の時間にもいつかは、終わりがやってくる。

 そして―


「・・・んぐっ・・・んっ・・・げぷぅっ・・・」

 喉奥から、汚臭がするげっぷを吐きながら、最後まで飲み干してしまう私―聖杯の底には、自分が出した汚物がべっとりと貼り付き、猛烈な悪臭を放つ、聖玉が転がっている。

 『相棒』に穢されたそれは恨めしそうに、先程よりも弱々しい燐光を、汚物の隙間から放っていた。


 『大切なもの―自分の誇りを、自身で穢してしまった』―これ以上ない、『物証』を眼前に突きつけられた私は、自身への失望と未来への絶望に、

「・・・たす・・・けて・・・あさ・・・ひ・・・」

 親友に救いを求めながら、膝から崩れ落ち、意識を手放してしまうのであった―


「・・・あらあら、気を失っちゃったのね・・・でも偉いわ、燈さん・・・」

 肉床にへたりこみ気を失いながらも、『便器』を包むように持つ燈―彼女は晶の命令通り、精を全て飲み干し、『石』に触れること無く、『浄化の儀式』を終えたのだ。

 これはネメシス神の信徒として十二分に、誇らしい偉業だろう。


「・・・うふふ・・・」

 晶は、慈愛の籠もった視線で燈を労りながら、

 ピュルッ、ピュルッ

 失神しつつも射精を止めぬ彼女から、そっと『便器』を取り上げ、その底にある『石』を摘まみ上げる。


 ニチャッ

 『石』の上にこびりつく粘液からは、指先でも感じ取れるほどの、強力な『力』が溢れていた。これは正に、ネメシス様の恩寵―

「・・・はぁっ・・・凄いっ♡・・・んっ・・・ちゅるっ・・・」

 それに晶は堪らず、汚液塗れの『石』を、口の中へ放り込む。

 『石』は生意気にも、ピリピリと舌先に『反抗』の意を示してくるが、そんなものは問題にならぬほど、

『・・・はぁっ♡・・・これが燈さんの・・・メネシス様の味・・・しゅごいっ♡』

 燈が吐き出した精の味は、これまで彼女が口にしたどの精よりも甘露であった。

 しかも美味なだけではない。

 ドプッ、ドプンッ

 確かな質量感を持ってネメシスの力が、彼女の喉奥、胃の腑へと落ちてゆく。


「・・・んっ・・・はぁっ♡・・・はぁんんっ♡・・・」

 ビクッ、ビクンッ

 軽い絶頂を繰り返しながら晶は、夢中になって、飴玉の様に『石』をコロコロとしゃぶり転がした。

 彼女にとってこの行為は、『神』とのオーラル・セックスにも等しい―でも、べっとりとこびりついていた筈の精は、あっと言う間に舐め取ってしまう―


「・・・んちゅっ・・・んっ・・・」

 晶は、名残惜しげに、しゃぶり尽くした『石』を摘まみあげると、部屋の灯りへ透かすように、眼前へと翳す。

 『石』の目障りな色は幾分、神聖な黒に包まれたように見えた。

 これも一重に、燈の『献身』だと思えば、可愛い後輩が尚更愛おしくなる―


 カランッ

 晶は再び『石』を『便器』に戻すと、燈の頭を撫で付けながら、

「・・・うふふっ・・・燈さん、本当に頑張ったわね・・・これからは目覚める度に、この『儀式』をするのよ・・・ふふっ・・・うふふ・・・」

 燈の脳裏へ刻むようにそう、命じるのだった。


 それに答えるかのように、

 ボオォォッ

 呪刻が妖しく輝くと、意識を失った彼女の肉棒からは、

 ビュッル、ビュルッ

 激しく、そして濃厚な精が溢れ散る。

 哀れな虜囚の行く末を暗喩するかの如く、燈の長い一日が、漸く終わる―

 

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