四神戦隊メイデン・フォース_True End After 第2話 四神戦隊メイデン・フォース_True end After Side A

第2話

「・・・う〜」
 正座をしながら呻り声を上げる薄紅色の変身少女に、
「・・・」
 無言で腕を組みながら、それを見下ろす白の変身少女−
 端から見ればかなりシュールな光景だが当人達は至って、真剣かつ深刻な状況下にあった。

「・・・それで?」
「・・・う〜ん、う〜ん・・・あっ、そう・・・コスプレ・・・コスプレなんだよ、カナちゃんっ!」
「・・・へ〜え・・・じゃあ私、珊瑚のコスプレ・ショーに付き合ってこんな格好しているのね・・・あ〜、ウレシイなぁ・・・」
「あう〜・・・ゴメンなさい・・・」
 珊瑚が『苦心』して編み出した『言い訳』を、奏は流れる様に打ち砕く。
 こんな状況下にあっても、普段と変わらぬ遣り取りを平然とできる奏の度胸も、大したものである。

 一方、珊瑚にしてみれば、友人達をこれ以上『こちら側』へ引き込みたくなどはない。
 『こちら側』は言わば修羅の道−
 そんなところへ大切な存在を巻き込む訳にはゆかないのだ。
 だが、『嘘をつく』ことが苦手な珊瑚が口達者な奏を説き伏せるという『任務』は彼女にとって、『魔王』を倒すことよりも遙かに難しいことなのかもしれない。

「・・・う〜」
 頭を抱え次の『言い訳』を考える珊瑚に、奏が加えようとした次の『口撃』は、
「・・・ごめんなさい・・・それ位にしてやってくれるかしら?」
 涼やかな女の声に防がれる。
 奏がその声の方向に視線を遣ると、水銀灯の薄明かりとコントラストを為す、漆黒のスーツに身を包んだ女性がこちらへと歩み寄ってくるのが見えた。

「・・・」
 奏は、それに思わず息を飲む。
 こんな状況でこんな場所に現れる人物だ。
 当然、警戒すべき対象ではあるのだろうが、その身に纏う剃刀の様な空気に奏は、動くことができない。

 女は、悠然と珊瑚の背後までやってくると、
「翡翠か・・・」
「珊瑚の保護者の神凪翡翠です・・・ウチの馬鹿娘が迷惑をかけてごめんなさい」
 そう珊瑚の言葉を遮りながら、むんず、と珊瑚の後頭部を掴み、己は頭を下げ、『愚娘』には頭を下げさせる。

「・・・あう〜」
 情けない声を上げうなだれる珊瑚に翡翠が、
「・・・それに」
 そう声を掛けた刹那、
「ギイイィィッ!」
 彼女の背後の叢から、一匹の『蛞蝓』が襲い掛かった。

 しかし、翡翠は動じることなく懐へ手を伸ばすと、
 ヒュンッ
 呪符を鋭く投げつけ、
「ギァァアァッッ!!」
 『蛞蝓』を両断する。
 『蛞蝓』は忽ち霧散し、その姿を闇に没した。

「・・・詰めが甘いっ!」
 パカンッ
 翡翠がヘルメットの上から珊瑚をはたくと、
「・・・あう〜」
 再び珊瑚は情けない声で項垂れる。

 そんな『母娘』漫才にただ、唖然とする奏と琴美のヘルメットの中に突如、
『強制起動モードを終了します・・・シャットダウンまで60秒・・・』
 警告メッセージが流れた。

「え・・・ちょっと待って!?」
 先程、自分の服が霧散し、裸になったことを思い出した奏は血色を失い、己の体を抱く。
 だが無情にも、
「・・・3、2、1、ゼロ」
 冷たい女性の声は、奏の声に応えることはない。

「・・・っ!!」
 奏は思わず目を瞑り、己をぎゅっと抱き締めた。
 しかし−
 サワッ
「・・・あれ?」
 肩を掴んだ指先に、布の柔らかな感覚が伝わる。
 恐る恐る目を開いた奏の視界には、学校を出た時と変わらぬ制服を纏った己の姿があった。

 見れば、珊瑚も琴美も、自分と同じ姿−風見原学園の制服姿に戻っている。
 パタパタと、確かめるように制服を触る奏と琴美に、翡翠は何とも言えぬ苦笑を浮かべると、
「・・・ねぇ二人とも・・・夕ご飯・・・ウチで食べていかない?」
 未だ目を白黒させる二人をそう、誘うのだった。
 


 ブウンッ
 奏達の乗ったワゴン車は軽快に、神凪の鎮守の森を、奥へ奥へと進んでゆく。
 風見原では初詣の定番となっているこの社ではあるが、一般客が入ることができるのはその外宮まで。
 土産物店や出店が並び、昼間は参詣客で賑わうそこを過ぎると途端に、深山、と言っても良い程の森へと入る。

 所々、有人のゲートを通り過ぎてはまた走る、ということを繰り返してはいるが、まだ目的地に着く気配はない。
「・・・」
 時々、道沿いの常夜灯に照らされるだけの車内は、重い沈黙に包まれていた。
 一番の喋り手であるはず珊瑚は、流石に気まずいのか、
「あ〜」「う〜」
 と時折、呻き声を漏らすものの、隣でハンドルを握る翡翠に気圧されて、『言葉』を漏らすことはない。

 手持ち無沙汰になった奏は、自分の横に座る琴美をそっと窺い見る。
 座席の肘掛けに肘を突き、外を眺める彼女の顔は、憂いを含んで美しい。
『本当に、この娘は喋らなければ美人なのに』−
 奏は心中でそう嘆息する。

 この先、どんな結末を迎えるのかは解らないが、この『友人』達と、面倒ごとに巻き込まれたことは確かだ。
 問題児二人の『いきものがかり』はきっと、自分の役割なのだろう。
 それを思うと、
「・・・はぁっ」
 思わず溜息が出る。
 しかしそんな奏の口許は何故か、僅かに綻んでいたのだった―



 ゴオッ
 短いトンネルを抜けたところで漸く、人家と思しき灯りが見える。
「・・・ほっ・・・」
 奈落の底の如き暗闇の中に現れたそれに奏は、ほっと安堵した。
 それは隣の琴美も同じ様で、
「・・・」
 暖かい灯りをゆらゆらと瞳に映している。
 やがて車は、古風な建物の前に音も無く止まった。

「・・・お帰りなさいませ」
 建物の前で、紅白の巫女装束に身を包んだ女性がしずしずと頭を垂れる。
「・・・ただいま、摩耶・・・瑠璃は奥かしら?」
「はい、食堂でお待ちです」
 翡翠と摩耶が会話を交わす横で奏と琴美は、思わず顔を見合わせた。 
 この玄関―最後の一線を越えてしまえば、元に引き返すことはできない―そう直感したからである。

 しかしそんな二人を制するように翡翠が、
「・・・そう・・・さあ、みんな・・・こちらへ」
 そう先を促すと、どちらからともなく、自然と足は中へと進んでしまうのだった―



「・・・さあ、どうぞ」
 そう言って翡翠に通された先には、純和風な空間とは相反して、黒檀のテーブルが設えられていた。
 しかし、重厚で上品なそれは不思議と、周囲の風景に溶け込んでいる。
 テーブルの上には、和食を中心とした料理が並べられその奥には、玄関の女性と同じ、紅白の巫女装束に身を包んだ女性が座っていた。

 その女性は、奏と琴美の前でゆっくりと立ち上がり、
「・・・こんばんは、北条さん、成田さん・・・二人のお話は、珊瑚からいつも伺っています・・・私は珊瑚の母、神凪瑠璃です・・・ようこそ、神凪家へ」
 そう言って微笑む。
 そしていつの間にか瑠璃の横に立っていた翡翠が、
「改めて・・・私は神凪翡翠、瑠璃の姉で・・・珊瑚の保護者よ」
 同じく微笑んだ。

 立ち並んだ二人の居住まいに、奏ははっと息を飲む。
 瑠璃と翡翠、雰囲気こそ違うがその顔立ちは鏡を合わせた様に同じ−きっと双子なのだろう。
 そして彼女達の脇に立つ珊瑚と見比べると矢張り確かに、瑠璃と母子であることは疑いない。
「・・・」
 琴美も奏と同じ様で、3人を見比べて目を白黒させている。

 そんな奏と琴美に笑顔を向けながら、
「・・・さあ、自己紹介も済んだことですし、食事にしましょう・・・二人とも、座って」
 瑠璃がそう促すと、何か奇妙な食事会が始まったのだった。



「・・・いただきます・・・」
 律儀にそう発した奏は、眼前に並べられた料理の一つ−鰤の照り焼きにおずおずと箸を伸ばす。
『・・・あ・・・美味しい・・・』
 醤油と味醂の風味が鰤の香ばしさとともに広がり、鼻腔へと抜ける。

 食卓に並べられた料理はどれも、庶民的なものだ。
 だがいずれも、食材は良いものを使っていることがわかる。
 両親が多忙で、弁当や総菜で済ませてしまうことの多い奏にとってこの料理はどこか、『懐かしさ』すら感じさせるものであった。

 少しずつ箸を進める奏と琴美に瑠璃は、
「・・・二人とも、お口には合うかしら?・・・私が作ったものだから、大したものではないけれど・・・」
 心配そうな表情でそう、尋ねてくる。

 それに奏は、
「・・・いえ、とても・・・美味しいです・・・」
 本心からそう答えた。
 見れば琴美もコクコクと、首を縦に振っている。
 緊張の所為で『箸が進む』という状況ではないがそれは決して、料理が不出来なわけではない。

「・・・そう?・・・そう言ってくれると嬉しいわ・・・沢山食べてね」
 瑠璃は再び微笑を浮かべると、その顔のまま、奏の隣に視線を投げ掛けた。
 その視線の先−奏の横で嬉しそうに料理を頬張る珊瑚を見ると、彼女が如何に大切に育てられているかを理解できる。
 そんな珊瑚を奏はどこか、羨ましそうな視線で眺めるのであった。



 コト
「・・・さて、それでは本題に入りましょうか・・・」
 瑠璃は手にした湯飲み茶碗を食卓に置くと、そう切り出した。

 その言葉を聞いて、どこか所在なげに茶碗を撫で回していた奏は、慌てて茶碗を食卓に置く。
 食卓に並べられた食器は粗方片付けられ、デザートの水羊羹が乗せられた小皿があるのみだ。
 奏と琴美は、
 ゴクリ
 と息を飲み、瑠璃の言葉を待つ。
 
「・・・その前に・・・北条さん、成田さん・・・この度はこんなことに巻き込んでしまって、申し訳ありません・・・神凪家を代表してお詫びします・・・二人とも、怖い思いをしたでしょう?」
 深々と頭を下げ、二人を気遣う瑠璃に奏は、
「・・・いいえ、そんな・・・」
 そう、反駁した。

 確かに、『怖い思いをした』ことは事実だ。
 しかし、珊瑚が故意に奏達を巻き込んだことではないことは、理解している。
 公園で珊瑚は、あの化け物から自分達を、逃がそうとしていてくれていたのだ。
 琴美も言葉に出さないながらも、頷いて奏の言葉を肯定する。
 それに謝罪の言葉よりも、奏には聞きたいことがあった。
「・・・あれは・・・あの化け物は・・・何なんですか?」

 奏の問いに答えようとした瑠璃を、翡翠が手で制し、
「・・・あれはね・・・妖魔、という存在よ」
 そう答える。

「・・・妖、魔?」
 奏は翡翠の言葉を思わず反芻した。
 漫画や小説の中でしか聞いたことのないその言葉に、現実味を感じられなかったからである。
 だがあの存在を形容するに、『妖魔』という非現実的な言葉は却って、しっくりときた。

 そんな奏の反応に今度は瑠璃が、
「・・・ええ、妖魔・・・この人の世に、仇をなす存在よ・・・私達神凪の一族は、その『妖魔』と戦っているの・・・『人』の世を護るために、ね」
 そう言うと、珊瑚のほうへ向く。

「・・・」
 珊瑚は気まずそうに視線を逸らすが、それに瑠璃は苦笑を浮かべながら、
「・・・それと、貴女達が装着していたもの・・・あれはそのための『盾』と『矛』・・・と言えばいいかしらね」
 そう、言葉を継いだ。  

「・・・妖魔と戦うための・・・『盾』と『矛』・・・」
 奏は噛み締めるように、瑠璃の言葉を繰り返すが、その言葉は噛み締めるほど、重く感じる。
 そんなものを自分達はあんなに簡単に、纏っていたということのなのか・・・だけどもその『事実』は先程の『妖魔』という言葉以上に、実感が沸かない。
 『矛盾』しているかもしれないが、それは自分の身に直接起こったことだからだろう−奏はそう自分を納得させる。

 しかし瑠璃が、
「・・・それで・・・大変言いにくいことなのだけれど・・・」
 そう言い淀みながら発した言葉は、
「・・・貴女達にも珊瑚と・・・一緒に戦って欲しいの」
 そんな奏の気持ちなど、軽く吹き飛ばしてしまうものだった―



「・・・戦うって・・・それって・・・どういうことなんですか!?」
 奏は食い掛かる様に瑠璃へそう叫ぶが、
「・・・文字通りよ・・・妖魔と戦ってもらいたい・・・そう言っているの」
 それを遮るように翡翠が瑠璃の前へ歩み出る。
 しかし当然、そんな言葉で納得できよう筈もない。

「・・・そんな・・・素人の私達にできる筈がないじゃないですかっ!!」
「・・・ちゃんとバックアップするわ・・・それに、訓練もする・・・だから大丈夫よ」
 激高する奏と冷静に宥める翡翠−立場の異なる二人の会話は噛み合わない−その時、
「・・・ん〜、ここからは真里亞(まりあ)が話をしたほうがいいかなぁ?」
 少し間延びした、女性の声が背後から割り込んだ。

 『真里亞』と名乗った女性は恐らくオシャレをすれば、かなり可愛い部類に入ると思うが、ボサボサの髪にヨレヨレの白衣、という出で立ちが全てを台無しにしている。

 真里亞は黒縁眼鏡が当たらんばかりに、ずい、と、奏のほうへ顔を突き出すように寄せると、
「・・・その時計を填めた時、チクッってしたでしょ?」
 奏の『腕時計』を指差した。

 奏はその無遠慮な質問に、むっとした表情を浮かべながらも、
「・・・はい・・・確かにしましたけど・・・」
 律儀にそう答える。

 すると真里亞はわざとらしく目頭を抑えながら、
「・・・あ〜、やっぱりそうだよねー・・・そうだと、もうソレ、奏ちゃんしか使えないんだよねぇー」
 馴れ馴れしい口調で天を仰いだ。

 そう言われた奏は、じっと『腕時計』を眺める。
 同じ『経験』をしたであろう琴美も、矢張り奏と同じく、自身の『腕時計』を眺めていた。

 奏は『腕時計』から顔を上げながら、
「・・・それが・・・どうしたっていうんですか?・・・また作ればいいじゃないですか」
 そう言って真里亞を睨みつける。

 しかし真里亞は奏の『威圧』に全く動じる素振りも見せず、
「・・・うーん、簡単に『作れ』って言っても、ソレ、作るのに結構時間が掛かるんだよね・・・」
 おどけた様にヒラヒラと手を上下させると、
「・・・それにソレ、結構高いんだよ・・・結構な損失にはなるかなぁ・・・丸損だからねぇ」
 と言葉を継ぎ、
「・・・原価で戦車一台・・・開発費込みで戦闘機一機分くらい?・・・それみんな、パーってことになるよね、パぁーっと」
 と言葉を結んだが、
「・・・」
 唖然と押し黙る奏とは対照的に、その姿はとても楽しそうだ。

 本来の論点とは別方向向き始めた二人の会話に、苦々しい表情で見守っていた瑠璃が、
「・・・お金のことは兎も角・・・何よりも私達には『時間』の余裕がない・・・どうかそこを理解して欲しいの・・・妖魔との戦いに空白を開けるわけにいかないわ」
 割り込んでくる。

 するとここまでテーブルの隅で縮こまっていた珊瑚が、
 ガタッ
 椅子をはね飛ばしながら立ち上がると、
「・・・カナちゃんにナリキン・・・本当にゴメンなさいっ」
 そう言って床に擦りつけんばかりに、頭を下げた。

 更に、
「・・・でもっ・・・瑠璃母様が言ってるとおり、一緒に戦って欲しい・・・二人は必ず・・・必ず私が守るからっ!!」
 そう叫ぶと、奏と琴美に向けて土下座し懇願する。

 カタンッ
「・・・珊瑚・・・」
 文字通り『必死』に懇願する親友の姿に奏は、思わず立ち上がった。 
「・・・」
 しかし、伝えるべき意思の言葉が、うまく口を出ない。
 こんな珊瑚の姿を見て、口にすべきことは一つなのに−

 そんな最中、
「・・・私は・・・構いませんわ」
 意外な言葉が意外な人物から発せられた。

「・・・っ!!」
 奏ははっと琴美のほうを見る。
 俯きがちに顔を伏せる彼女は、
「・・・私が・・・私が戦わないと・・・皆さんが困るのでしょう?」
 訥々ではあるが、言葉を紡ぎ続ける。

 更に、言葉を続けようとした琴美に、
「・・・でしたら私は・・・きゃっ!?」
「・・・ありがとーナリキンっ!!」
 ガタンッ
 どんなジャンプ力を発揮したのか、珊瑚が飛びかかっていた。

「・・・ちょっと神凪さんっ!?・・・どこを触って・・・きゃぁっ!?」
 椅子ごと倒れた琴美にのし掛かる珊瑚は、琴美の豊満な胸に頬を埋め擦り寄せながら、
「やっぱナリキンは優しいね!・・・だーい好き!!」
 満面の笑みではしゃぐ。

「・・・」
 親友が喜ぶ姿であるのに、奏の胸はズキリと痛んだ。
 今の琴美のポジションは、『親友』である自分が居るべき場所だった筈−その痛みと苦悩は、
「・・・私も・・・私も戦います・・・」
 漸く、彼女の口から『適切』な言葉を紡ぎ出す。

 それを聞いた珊瑚は、
「・・・カナちゃんっ、ありがとー!!・・・カナちゃんも大好きっ!!」
 標的を奏に変え飛びかかる。

「カナちゃーん♡」
 珊瑚は無邪気に奏の薄い胸に顔を埋めるが、
「・・・」
 奏の胸の痛みは、僅かに和らぐだけであった−



「・・・瑠璃様、翡翠様・・・お二人は、お帰りになりました」
 奏と琴美を玄関で見送った摩耶は、そう主達に報告する。

「・・・有り難う、摩耶・・・もう下がっていいわ」
 瑠璃がそう応じると摩耶は、
「・・・はい・・・では、失礼致します・・・」
 頭を下げながら踵を返した。

 軽く会釈をする摩耶と入れ替わりに、
「・・・はい、『検査結果』・・・正直凄いよ、この数値」
 真里亞が現れ、そう言って手にした『紙』を、瑠璃へ渡す。

「・・・」
 それを受け取った瑠璃は、無言で『紙』の『データ』に視線を滑らせた。 
 そこに記されているのは、奏と琴美の『検査結果』−食事の後に下げた食器から唾液を採取し、彼女達の『資質』を検査していたのである。
 『検査結果』は、彼女達のポテンシャル−巫女としての霊力や適性に問題が無いことを、いやそれどころか、並の巫女よりも遙かに高い『資質』を持つことを示していた。
 神職に縁がなく、ましてや巫女の修行すら皆無の者がこの様な数値を示すことなど、前例が無い。
 彼女達に適切な『修行』を施せば、『戦巫女』になる可能性は十分にあるだろう。

「・・・それにしても流石だねぇ、珊瑚ちゃんは・・・こんな『お友達』を連れてくるなんて」
 真里亞の言葉通り、こんな『逸材』を連れてくる−しかも『友人』として−ことは、決して偶然などではない。
 珊瑚の『力』が自然と、『適格者』を惹き寄せたのであろう。
 珊瑚の『両親』である姉妹だけではなく、『科学者』である真里亞さえも、そう考えていたのだ。

「・・・私は・・・本当に・・・悪い大人ね・・・」
 瑠璃は、『検査結果』から目を逸らさずにそう独りごちる。
 これも己が為した因果なのか−今自分は、娘ばかりではなく大切な友人さえ、その悪しき『因果』に巻き込もうとしているのだ。

「・・・いいえ、瑠璃・・・『私達』、よ・・・」
 翡翠は咎を一人で背負うとする妹の肩に手を置き、そう囁く。

 愛する妹と『娘』の『因果』は全て、自分から生まれたもの−言葉の中に姉の苦悩を察した瑠璃は、
「・・・姉様・・・」
 姉の手に己の手を重ね、数字と文字が羅列されただけの検査結果を見つめた。
 その先にある、少女達の運命と自分達の業を透かしながら−

True End After SideA 第2話 おわり

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